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そのまま愛と少年は、並んで改札まで続く階段を登った。春らしい暖かな風が二人の間を吹き抜けるのが、ほおを通し分かった。
ちらりと横を見る。少年は、正面に劣らぬ爽やかさと美しさを表現する横顔で、黙々と階段を登っている。
新しい生活を始めると決意したこの場所で、こんな美しい少年と偶然出会う。
何の因果か。
軽やかな足取りで階段を登りきり、改札を抜けると、少年は「じゃあ、少し急ぐのでここで」と先に歩き出した。
「あ、ありがとうございました!」
慌ててその背中に声をかける。少年はにこりと笑って手を振り、それに応じた。
遠ざかっていくその後ろ姿を、愛はうっとりと見送った。良い出会いだった。
と、突如少年が振り返った。キョトンとして、愛は首を傾げた。
少年は、ニヤリと笑った。先ほどの柔らかい笑みとは違う。小さい子供のいたずらをする前のような顔だ。
何?
少し困惑気味の愛に向かい、少年は言い放った。
「やっぱりさ、白は清潔で良いよね」
……え。
愛の脳みそは一瞬フリーズした。その間に少年は踵を返し、「それじゃ」と再び遠ざかっていく。
少年の後ろ姿が構内の向こうに消えた頃、愛はやっとハッとしてスカートを抑え、瞬間でほおを染め上げ、少年の後ろ姿に向かって思いっきり睨みを効かせた。
あいつ、見やがった……!
最低……!!
心優しい王子様級の美少年から、一瞬で殺意の対象へと転落した少年の、今は無き後ろ姿を、愛は精一杯の怨念を込めて呪った。
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