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門を潜ると、そこには豪華な洋風の庭が広がっていた。
芝生は青々としていて、綺麗に刈りそろえられた植木や、丁寧に整えられた花が春の陽気の下で咲き誇っている。
そんな庭園の奥に、「校舎」と呼ばれる洋館があった。
何度かテレビで紹介されているのを見たことがある。
それでも、生で見ると圧巻だった。
某映画で魔法使いが暮らしていそうな、日本離れした雰囲気をもつ。
煉瓦造りの壁、おしゃれな飾り窓。その全てが、これが高校の校舎であるとは信じ難くなる要因の一つだ。
真子は迷いのない足取りで、洋館の正面玄関をくぐった。
愛も後に続く。
洋館の中も、外に引けを取らない豪華さだった。
入り口すぐのロビーと思われるそこは、温かみのあるダウンライトで照らされ、中央にはぐるぐると黒い螺旋階段が伸びている。
真子は螺旋階段を通り過ぎ、その奥にあるエレベーターに向かった。
エレベーターに入ると、「ここまで大変だった?」と気さくに話しかけてくる。
「いえ。電車に乗っていただけなので」
本当は、電車を降りてからが最悪だったけど。
「そう。大変だったわね、震災」
「あまり被害もなかったので、大丈夫ですよ」
そういえば義父母は、家が壊れただのなんだの騒がしくしていた。
「こっちは揺れなかったんですか?」
「いっても震度2くらいかな。大したことなかったわ」
そうこうしているうちに、エレベーターは最上階に到着する。
最上階は、かなり静かな空間だった。別にここまで騒がしかったわけでもないのだが、最上階は満ちる空気が凛としていて、空気自体が口を謹んでいるかのような錯覚を起こさせるものだった。
真子について、廊下を進む。窓の向こうに、グラウンドが見えた。何部だろう。ランニングをしている集団がある。
「ここよ」
その声に顔をあげる。そこには、門と同じくらい厳かな両開きの青い扉があった。横に金文字のプレートで「校長室」と記してある。
途端、緊張してきた。
「大丈夫。校長先生はいい人だから」
真子はそんな愛の緊張を読み取ってか、そう柔らかく告げ、扉をコンコン、とノックした。
「校長、美浜愛さんをお連れしました」
「どうぞ」
返ってきたのは、凛とした女の人の声だった。
小さく深呼吸をする。その間に、真子は扉をゆっくりと押し開けていた。
よし。
愛は心の中で気合いを入れ、押し開けられた扉の向こうに、足を踏み出した。
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