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間違いなく、熊の前足の一撃よりも激烈な結果をもたらすに違いない。しかし、四郎はそれを、わずかの間合いで離す。
「醜いぞ、ジョッシュ、それこそ、幻魔!今のお前は、立派な幻摩だよ」
「があ、言うな、言うなあ」ジョッシュは血の涙を流している。
そんな悪鬼であることに耐えられないのだ。しかし、それが判っているのに、自分で自分をどうすることも無いのだ。
「気持ち良いか、ジョッシュ、気持ちが良いんだろ?その快楽に、人は溺れたがるのだ。なんとも厄介な存在に、設計されているんだ。しかし、良いのだ、それに流されなければ。それが人間の取り扱いマニュアルなのだ。飲まれるな、月に救いを求めろ、お前の守護神だ」
「わああ・・助けて、月よ!」ジョッシュは、思わず叫んだ。その瞬間だった。
光の柱が立った。ジョッシュの体からだ。
「求めても、与えられ無いことは在る。しかし求めなければ与えられることは決して無いんだ、ジョッシュ」
「わああああ!何だ、これは・・なんだ」ジョッシュの体が、光に包まれる。
「その光に抗うな。心を任せろ、そっちには飲み込まれてもかまわん。それがおまえの本質の光だ」
「オレの、オレの本質の、光・・!」
これが、これが・・オレなのか?オレの本質なのか?”巨人”なのか、こんな・・巨大な本質が、自分の心の奥底に存在したなんて、今の今まで実感はなかった。
しかし、今はわかる。それは、存在する。実在する。それを思えば、先ほど彼を悩ませは瘴気など、一息のタバコの煙ほどの力を持たない。なんということだ、なんということだ。すごい歓喜が、ジョッシュの体を包んだ。
「それが、ジョッシュ、それがきみだ」
その夜、満月のした、あざやかな美しい金の狼がいつまでも、チェンバースの町の周りの森を疾駆していたという。
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