金狼、銀月

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 すさまじい戦いだった。敵は大排気量バイクの軍団だった。ただの暴走族ではなかった。昔の騎兵隊を思わせるが、きゃつらには正義も何も無い。  走る、最悪の暴風。略奪集団。  考えてみれば、いつからこんなに合衆国の治安が悪くなったか、思いつかない。昔からお世辞にも治安が良いとは言わないが、これほどひどかったはずが無いという米国民が大部分なのでは無いだろうか。殺伐とした事件ニュースが多いとは考えていたかもしれないが・・  きゃつらは、走るテロリスト、昔の物語に登場する盗賊団の現代版だった。彼らの戦力は、今や並みの警察が適う相手ではなかった。戦車とかこそ持っていないが、どこかの闇市場で手に入れた米軍の携行武器をバイクにくくりつけるなどして殺到するのだ。なぜ、きゃつらを監視し、州軍が動かないのか、間違いなく米国の七不思議のひとつであった。どこからともなく現れ、暴虐の限りを尽くした後、どこかに消えていくのだ。  ”アメリカは内戦中だ”という人間も少なく無いが、まだマスコミはそれを認めてはいないのだった。当然ながら、そこに何かあると考えるべきなのでは無いだろうか。恐るべき陰謀が・・  しかし、今はまだ、それを考える時間ではないと思う。少なくとも今の自分の役目だとは思えないジョッシュであった。まだ、自分はただのガキに過ぎないことを、今回の死闘で痛感させられたからだ。 「アストロボーイ、いいかな?」 「シローさんか」ジョッシュに声をかけてくる人物が居た。  メガネの長身、秀才を絵に描いたような男である。ただし、どこか皮肉っぽい薄笑いを常に顔に浮かべ、どんな道心堅固な人間でも道であったらぶん殴りたくなること請け合いの日本人、名前は江田四郎。今はNYの大学生だという。しかし、実際に殴るのは止めたほうが良い。おそらく、少なくともこのチェンバース界隈でこの男以上の戦闘力を持った能力者は居ないからだ。というわけで、ジョッシュも彼には一目置かないわけには行かない。 「どうぞ」日系米国人のジョッシュ、この国でのニックネームとなると人気アニメの”アストロボーイ”・・製作された本国では”鉄腕アトム”というらしい・・というのが鉄板なのだが、この呼び名が嫌いだ。言う側は悪気は無いし、人気者で有能な子供を意味しているつもりなのだろうが、あの5頭身の主人公を思い出すと、バカにされた気分にしかならないのだ。
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