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『あの時の人の子の族か。良いだろう。汝に如意宝珠を与えよう。しかし、それに当たって一つ予言がある。汝の願いは人の身にはいささか過ぎたものである。願いを叶える対価として汝の身は魂を失い、その魂は【華守姫】へと昇華され神の国の門を跨ぐ。華の世に帰還するすることは永久に不可能である。隣人が恋しくなることもあろう。目下ならば思いとどまる事も可能ではあるが?』
との龍神様の警告にも、
「龍神様、お言葉ですが、私は全て覚悟の上でこの場に立っているのでございます。たとえ、この身を失おうと、それで華の世を救えるならば、それは本望。これは、生まれでた時から負った天命とは何の縁の無いただの私の我が儘。今さらこの願いを取り止めるなど、私の本懐に反するものです」
そう彼女の心は揺るぎません。
『フッ、華の世全てを巻き込んだ我が儘、か。どうやら、汝は余程の太平楽と見える』
「ふふ、相違ありません」
龍神様が笑い、彼女もそれに同調しました。
『……良い覚悟だ。さぁ、手を差し出せ。宝珠は汝の如何なる願いをも叶えるであろう』
【予言の子】は龍神様から如意宝珠を受け取り、己のたった一つの願いを珠に込めます。
永遠の世、自身の理想郷、守りたい人々。それらが入り交じった、たった一つの大切な願いを。
──そうして、願いを込め終え、少女はその場に崩れ落ちました。珠の働きにより、心と体を切り離され、【予言の子】は深い眠りについたのです。
『彼女の夢路に幸多からんことを』
龍神様の呟きを聞く者はもう、そこには居ませんでした。
こうして、【予言の子】は夢源華守姫となり、彼女の統治する、夢源華の世が誕生したのです。夢源華の世は夢源華守姫の明晰夢であり、華守様は、その意思作用をもって、永久に華の世を守護していてくださる、ということです。
そう、【予言の子】は華の世を終わりから、解き放つことが出来たのでした。
──鳴呼。夢源の華のなんと美しき事か。
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