4号車の後ろ側の扉

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4号車の後ろ側の扉

今日は残業にならないといいなぁ。 なんとも残念な思考で改札を通り、いつも通りの4号車後ろ寄りの位置で、いつもの電車を待つ。 午前8時50分発の電車はいつも通りスムーズな減速と共に、ホームへと滑り込んできた。 通勤ラッシュの真っ只中、当然のように空席はない。 押しづめ状態でないだけましだと、私は思っている。 同期入社の秘書課のマドンナは、とんでもない混雑路線近辺に住んでしまったがために、毎朝酷い目に遭っていると、昨日も嘆いていた。 いた! 扉に背を寄りかからせた私の視線の先には、一人の青年が立ったまま、本を読んでいる。カバーをしているから、なんの本なのかは分からない。 短く刈り込まれた黒髪。女子でも羨ましくなるほどの白い肌に、くっきりとした二重瞼に、長いまつげ。実は幼い顔立ち。だけど、それはよくよく観察しなければ分からない。なぜなら、第一印象に来てしまうのが、あまりにも似合っていない黒縁の四角い眼鏡だからだ。 あれさえなければ、結構もてると思うんだけどな。 いつぞやそう言ったら、余計な御世話です、と言われてしまったが。それでも、私は今日もこう声を掛ける。 おはよう!羽島くん。 眼鏡を変える気は本当にないの? 羽島 努(はねしま つとむ) 26歳は、今日もうんざりしたような顔でこちらに視線を寄越した。
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