帰り道

1/2
前へ
/31ページ
次へ

帰り道

西川 創太 その子を今日の最後の子と決めて、私は本日の終業まで、残り2時間を切ろうとしていた。 西川くんは非常に熱心な大学受験生だ。 添削者には、本人の勉強方法に関するアドバイスも求められるため、生徒のプロフィールも渡されている。 全国でも有数の名門高校に通っていたが、 ある時から不登校に。しかし、昨年から一念発起。 医学部受験を目指して勉強中。 熱心さは私が担当する生徒の中では群を抜いている。 本気なんだな。 生徒の答案を見ると、生徒自身がそこに座っているように感じる。なんだか、自分の高校時代を思い出してしまう。私ってこんなに一生懸命頑張れていたっけ? 頭が下がる思いだ。 ちなみに、不登校の彼には家庭教師が付いているらしい。 毎回、答案と一緒に几帳面な字でメモが入っている。 いつも添削ありがとうございます。 今回のご指摘も非常に的確で、参考にさせていただきました。どうぞ今回もよろしくお願い致します。 蓑田 そのメモにはごく稀に、生徒の近況も書かれていた。 もちろん、テキストを変えたなどの勉強に関することだが、ここまで熱心で丁寧な講師は珍しかったし、 なんだか、毎回嬉しくなってしまい、一度返事を書こうとしたのだが、添削原稿は生徒のためのもの。 家庭教師は他社からの派遣のため、連絡先も当然分からず、返答の仕様がなかった。 西川くんの添削を終え、メモを眺めながら、 この字、どこかで見たことがあるんだよなぁ。 私は誰に言うでもなくぽつりと呟いた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加