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帰り道
西川 創太
その子を今日の最後の子と決めて、私は本日の終業まで、残り2時間を切ろうとしていた。
西川くんは非常に熱心な大学受験生だ。
添削者には、本人の勉強方法に関するアドバイスも求められるため、生徒のプロフィールも渡されている。
全国でも有数の名門高校に通っていたが、
ある時から不登校に。しかし、昨年から一念発起。
医学部受験を目指して勉強中。
熱心さは私が担当する生徒の中では群を抜いている。
本気なんだな。
生徒の答案を見ると、生徒自身がそこに座っているように感じる。なんだか、自分の高校時代を思い出してしまう。私ってこんなに一生懸命頑張れていたっけ?
頭が下がる思いだ。
ちなみに、不登校の彼には家庭教師が付いているらしい。
毎回、答案と一緒に几帳面な字でメモが入っている。
いつも添削ありがとうございます。
今回のご指摘も非常に的確で、参考にさせていただきました。どうぞ今回もよろしくお願い致します。
蓑田
そのメモにはごく稀に、生徒の近況も書かれていた。
もちろん、テキストを変えたなどの勉強に関することだが、ここまで熱心で丁寧な講師は珍しかったし、
なんだか、毎回嬉しくなってしまい、一度返事を書こうとしたのだが、添削原稿は生徒のためのもの。
家庭教師は他社からの派遣のため、連絡先も当然分からず、返答の仕様がなかった。
西川くんの添削を終え、メモを眺めながら、
この字、どこかで見たことがあるんだよなぁ。
私は誰に言うでもなくぽつりと呟いた。
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