1-8 命名式(2)

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 彼等の視線を背中で強烈に感じながら、乗船したシャインは神官を伴い船首甲板へとおもむいた。命名式は祭壇が作られた船首部で行われる。  緋の法衣を纏った年嵩の神官は、この日のためにはるばるエルドロイン河を下り、王都ミレンディルアからやってきたアルヴィーズ正教会の神官長だ。  彼は金縁の縫い取りが豪奢な肩掛けを捌きながら祭壇に近付くと、そこで恭しく頭を垂れた。祭壇といってもその正体は小さな机の上に、青と金の飾り布で覆われた簡素な台である。  その祭壇の上には祝酒の黒いビンが一本置かれていた。  中味は海神・青の女王と、船に宿る魂――『船の精霊(レイディ)』に捧げられるための聖なる血――ではなく、上等な赤葡萄酒だ。ビンの首の所には海を表す青銀の絹のリボンがかけられ、その端には一対の金の指輪が結び付けられていた。  シャインはそれに緊張した視線を走らせながら、神官の後ろで片膝を甲板についた。  年嵩の神官はシャインが位置についたことを確認してから、ゆっくりとした抑揚で祈りの詞を紡ぎ始めた。  これが終われば、次はいよいよシャイン自らが新造船に名を与えることになっている。  命名式は、実は、本当に短い儀式なのだ。
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