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「グラヴェール艦長。それでは始めて下さい」
神官の祝詞の声は既に消えていた。
シャインは俯いていた面を上げて立ち上がると、神官が差し出した祝酒のビンを両手で恭しく受け取った。
胸に抱いたそれがずしりと重く感じるのは、同時にこれから自分が果たさなくてはならない役目のせいでもあるだろう。
神官は祝酒の首に結ばれているリボンの端から、対の指輪の一つを取り去った。それをシャインの右手薬指へそっとくぐらせる。
エルシーア海軍には変わった慣習がある。一部の商船でもやっていることだが、海軍の艦長は着任した時、船と誓いの指輪を交わし彼女を妻として娶るのだ。それは船の魂でもあり、守神でもある『船の精霊(レイディ)』が大変嫉妬深く、船に女性を乗せると妬いて挙げ句の果てに船を沈めてしまうという迷信があるからだ。
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