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「すごい……」
レイディの体の縁をなぞるように青白い微光が取り巻いていく。
と、帆桁の円材が少しずつ上へと動き出した。
それは両手を前に伸ばし、掌を下に向けた彼女に吸い付くように浮いていく。
レイディも円材が上に上がるにつれて、自分もさらに上へと上がっていく。
ヘルム副長の足の上から円材が宙に浮いたところで、レイディは掌をさっと海の方へと向けた。ぶうんと風を切る音がして、円材は大きな水しぶきを上げながら船外へ落ちた。
「君は……本当に、この船の精霊(レイディ)なんだ……」
感嘆の声を思わずシャインは上げた。
鮮やかな赤髪をゆらしてレイディが振り返る。
シャインはうめき声すら上げなくなったヘルム副長に気付き、慌てて右手を彼の首筋に当てた。弱いが、脈はある。どうやら傷のショックで気を失ったのだろう。
だがこのまま海を漂流すれば、ヘルム副長は元より自分も死ぬ。
「港へ――アスラトルへ……帰らなければ……」
少しでも帆に風を受けるため、船の向きを変えなくてはならない。
舵輪まで歩いてその柄を掴んだ時だった。
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