1-2 精霊の少女

16/18
前へ
/372ページ
次へ
「すごい……」  レイディの体の縁をなぞるように青白い微光が取り巻いていく。  と、帆桁の円材が少しずつ上へと動き出した。  それは両手を前に伸ばし、掌を下に向けた彼女に吸い付くように浮いていく。  レイディも円材が上に上がるにつれて、自分もさらに上へと上がっていく。  ヘルム副長の足の上から円材が宙に浮いたところで、レイディは掌をさっと海の方へと向けた。ぶうんと風を切る音がして、円材は大きな水しぶきを上げながら船外へ落ちた。 「君は……本当に、この船の精霊(レイディ)なんだ……」  感嘆の声を思わずシャインは上げた。  鮮やかな赤髪をゆらしてレイディが振り返る。  シャインはうめき声すら上げなくなったヘルム副長に気付き、慌てて右手を彼の首筋に当てた。弱いが、脈はある。どうやら傷のショックで気を失ったのだろう。  だがこのまま海を漂流すれば、ヘルム副長は元より自分も死ぬ。 「港へ――アスラトルへ……帰らなければ……」  少しでも帆に風を受けるため、船の向きを変えなくてはならない。  舵輪まで歩いてその柄を掴んだ時だった。
/372ページ

最初のコメントを投稿しよう!

331人が本棚に入れています
本棚に追加