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1-3 起動
この部屋の主に遭遇するのはどちらかといえば苦手だ。
だが依頼を受けたからには、報告をしないわけにもいかない。
ロイス・ラングリッターは黒檀の扉の前で苦笑いを漏らした。
ここはエルシーア海軍本部でも、「海軍卿」と名のつく幹部クラスが詰める執務室がある場所だ。まもなく正午だというのに、ここの廊下は北向きで人気がないせいか、ひやりとした静謐な空気に満ちている。
面会が短時間で終わりますように。
そう祈りながら扉をとある符丁にそって叩くと、ややかすれがかった声で返答があった。
「開いている」
ロイスは静かに扉を開けた。
部屋の奥には人の背丈ほどある大窓があり、その前に置かれている執務机には一人の男が座っている。
常人より遥かに背の高い大男で、将官のみ着用が許される黒い海軍の軍服を纏っている。
窓から入る光のせいで逆光となり、将官の顔は影となって表情をうかがうことができない。
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