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「何かに憑かれたように夕日を見ていたぞ。母港アスラトルを発って三日。まさかもう国が恋しくなったなんて言ってくれるな? 我々はエルシーア国王の命を受けて、敵国シルダリアの偵察任務についたのだからな」
「はい。それは大丈夫です」
シャインは頭一つ分背の高いヘルムを見上げた。
一等海尉は三十歳。
それに比べて自分は先月二十歳になったばかりで、このアイル号が海尉として初めて乗る船となる。副長から見れば、シャインはまだまだ年若い士官候補生と同じにしか見えないのだろう。
口に広がる苦い思いを噛み潰すと、シャインの耳に昼当直の終わりを告げる船鐘(シップベル)の音が聞こえた。
「16時になりました。ヘルム副長。それでは航海日誌に記入してから部屋に下がります」
「わかった」
ヘルムは頷き、舵輪のある船尾甲板の方へ歩いて行った。
その後ろ姿を見送って、シャインは小さくため息をついた。
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