1-4『使い走り』

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 ホープはまるでシャインを試すかのようにじっと見つめていた。  年を経て落ち窪んだ老船匠頭の水色の瞳が意味ありげに瞬く。 「お前さんならわかるはずだ」――ホープはそう語りかけている。  シャインは小型船の正体を探るべく、改めて設計図と向き合った。  印象深いのは飛魚のように長くほっそりとした船体だ。だが横幅は八・五リールと狭い。三層ある甲板の一番下は船の安定性を高めるため、石の重りを載せなければならないから、あまり物資は積めないだろう。船体が細いので揺れの影響が大きく乗り心地も悪そうだ。よって要人を招いて食事会等に使う客船でもないだろう。もとより客室の区割りがない。  みればみるほど、この船が造られる目的は一つしか考えられない。  そしてその目的にこそ、シャインは自分が惹かれていくのを感じた。乾いた喉が水を欲するように、この小さな船こそが、自分に必要なものだと感じた。一度はあきらめていたその望みが心の奥底で燻って、再び燃え上がるのではないかと思った。シャインの目には整然とした線で引かれた船の平面図ではなく、実際にエルシーアの碧い海を、白い翼を羽ばたかせて駆ける彼女の姿が見えていた。  もしも、叶うのならば。  それを望むことを許されるのであれば。
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