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別に偵察任務のことを憂いて物思いに耽っていたわけじゃない。
確かに一度任務に向かえば、最低一年はエルシーアへ帰ってこれないが。
それは構わない。
いや、今はそれを望んでいる。
柵の多い陸(おか)よりも海上を往く方が何倍も気楽だ。
シャインは夕日のせいで、黒い槍にも見える船首の斜檣(バウスプリット)を再び見つめた。
確かにあそこにたたずんでいたんだ。
黄昏色の髪を海風に靡かせた少女。
その姿は淡く光っていて俺に気付くとはにかんだように微笑した。
白昼夢にしてはあまりにもはっきりしすぎていた。
けれど日没を迎える今、やはりそれは夢だったのかもしれない。
「船の精霊(レイディ)……か」
シャインは名残惜しげに視線を船首からひきはがし、上甲板中央のメインマストの後ろにあるハッチから船内に入ろうとした。
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