1-7 命名式

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 ジャーヴィスは白い手袋をはめた右手をこめかみに当てて、深く深く溜息をついた。  逃げることはなかった。  落ち着いて、あの人と握手を交わして、そして船内を案内してもらえばよかったんだ。  それができなかったのはひとえにさもしい己の自尊心のせいだ。  あの船大工の青年――いやその言い方はまずい。  普段から渾名をつけて呼んでいたら、肝心な時にぽろっと漏らしてしまう。ジャーヴィスは最低一度は言わねばならない、けれどまだ言い慣れぬその名前を口に出した。 「グラヴェール艦長……」 「艦長はまだここへ来てませんよ。ジャーヴィス副長」 「……なっ!」  ジャーヴィスは突如明るく響き渡った声に身をすくませた。
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