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ジャーヴィスは白い手袋をはめた右手をこめかみに当てて、深く深く溜息をついた。
逃げることはなかった。
落ち着いて、あの人と握手を交わして、そして船内を案内してもらえばよかったんだ。
それができなかったのはひとえにさもしい己の自尊心のせいだ。
あの船大工の青年――いやその言い方はまずい。
普段から渾名をつけて呼んでいたら、肝心な時にぽろっと漏らしてしまう。ジャーヴィスは最低一度は言わねばならない、けれどまだ言い慣れぬその名前を口に出した。
「グラヴェール艦長……」
「艦長はまだここへ来てませんよ。ジャーヴィス副長」
「……なっ!」
ジャーヴィスは突如明るく響き渡った声に身をすくませた。
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