1-7 命名式

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「祭壇の支度が整いました。それを報告しに来ました」  ジャーヴィスはちらと船首甲板を見た。舳先の手前に青と金の布で覆われた四角い祭壇が見える。上げ綱や静索にも色とりどりの小旗がはためいて、飾り付けも一通り完了したようだ。 「ああ。ご苦労だった。そうだついでにもう一つ頼みがある。お前は下甲板に下りてシルフィード航海長に、水兵達の支度がちゃんとできているか確認しに行ってくれ」 「わかりました。それでは失礼いたします」 「ああ」  ジャーヴィスはクラウスの小柄な後ろ姿が、メインマストの後方にある昇降口へ消えて行くのをいつまでも見てはいなかった。  海軍省本部からやってきた白い正装姿の士官が、来賓を先導して新造船の中央に設置された渡り板の前まで歩いてくるのに気付いたからである。  この船は商船と変わらないほど小さな船であるが、艦長が参謀司令官の息子であるが故に、二十名を超す客が招かれていた。ひょっとしたらあのグラヴェール参謀司令が来るのでは、とも噂されている。
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