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ジャーヴィスはその光景を見つめ、苦いものを噛み潰したように顔を歪めた。
ここには権力に集る蛆虫ばかりがやってくる。
彼等の狙いは命名式と艦長就任の祝いにかこつけて、少しでもあの参謀司令官の息子と仲良くなることだ。彼と懇意になれたら次は父親の番だ。
特に武器商人たちは、グラヴェール参謀司令官の機嫌を損ねないよう必死だ。彼の意にそぐわないことをすれば、即座に海軍で使用する銃や大砲等の武器を 発注してもらえなくなる。
あんな連中を船に乗せたら、それこそ船の魂である『船の精霊』の怒りに触れそうだ。
早く式を終わらせて、静かな軍港へと移動したい。
心からジャーヴィスがそう思った時、下でたむろしている野次馬達がざわめき出した。めいめい造船所の通用門がある『帆柱(マスト)畑』の北側を向いて、そこからやってくる一台の黒塗りの馬車を指差している。
新造船の前に並ぶ来賓たちも、それに気付いて後ろを振り返った。
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