1-7 命名式

10/15
前へ
/372ページ
次へ
 ジャーヴィスはその光景を見つめ、苦いものを噛み潰したように顔を歪めた。  ここには権力に集る蛆虫ばかりがやってくる。  彼等の狙いは命名式と艦長就任の祝いにかこつけて、少しでもあの参謀司令官の息子と仲良くなることだ。彼と懇意になれたら次は父親の番だ。  特に武器商人たちは、グラヴェール参謀司令官の機嫌を損ねないよう必死だ。彼の意にそぐわないことをすれば、即座に海軍で使用する銃や大砲等の武器を 発注してもらえなくなる。  あんな連中を船に乗せたら、それこそ船の魂である『船の精霊』の怒りに触れそうだ。  早く式を終わらせて、静かな軍港へと移動したい。  心からジャーヴィスがそう思った時、下でたむろしている野次馬達がざわめき出した。めいめい造船所の通用門がある『帆柱(マスト)畑』の北側を向いて、そこからやってくる一台の黒塗りの馬車を指差している。  新造船の前に並ぶ来賓たちも、それに気付いて後ろを振り返った。
/372ページ

最初のコメントを投稿しよう!

331人が本棚に入れています
本棚に追加