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ジャーヴィスは軍服のポケットから金鎖のついた懐中時計を取り出した。十分あまりで午後一時になるから、予定通りの御到着ということか。
結構。遅刻はするのもされるのも大嫌いだ。
ジャーヴィスは一つの懸念が解決されて、少しだけ心に余裕が出来たことに安堵した。
時計から顔を上げると、クラウス士官候補生が、下甲板で待機させていた十五名の水兵達を従えて左舷舷側に整列させていた。彼の隣には、その二倍の身長がある大柄な男が立っていて、まだ自分の立ち位置がわからない水兵に向かって怒鳴り声を上げている。
「シルフィード航海長、ここですかい?」
「違う! お前はエリックの隣だ。ほらエリック、ムストンを入れてやれ。さっさと並んだ並んだ!」
「シルフィードのやつ。やる気満々だな」
ジャーヴィスは口元に小さく笑みを浮かべ、自分も出迎えのためにそちらへ向かって歩き始めた。
新造船の甲板はマストや巻上げ機、下甲板への昇降口などがあるので、お世辞にも広いとはいい難い。
左舷の舷側を歩きながら到着した馬車の方へ視線を向けると、黒い礼服を纏った御者が頭を垂れて、恭しく扉を開く所だった。
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