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『やっぱり彼か?』
ジャーヴィスは目を細め、馬車から下りるその姿を固唾を飲んで見守った。
野次馬達が一斉に大仰な歓声を上げた。かん高い口笛を吹く者もいる。レースの縁取りをふんだんにあしらった日傘をさした婦人たちが、一目その姿を見ようと馬車の方へ走っていく。
水色の軍服をまとった海兵隊の数名が、大きく腕を広げて障壁を作り、彼女達を馬車に不必要に近付かせないように立った。
そんな騒ぎの中、淡い月影色の金髪を首の後ろで三つ編みに束ねた軍服姿の人間が、馬車から静かに降り立った。
『どうか、あの人ではありませんように』
ジャーヴィスは咄嗟に目を閉じて願った。
けれどその願いは虚しく、再び目を開いたジャーヴィスの視線の先には、昨日会った船大工姿の青年が、外洋の青を模したエルシーア海軍の軍服を纏って立っていた。
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