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1-4『使い走り』
◇◇◇
アスラトルの港に近い海軍の療養院に、シャインが担ぎ込まれてひと月が過ぎた。
目覚めた時に見上げた天井は知らない部屋で、寝台の傍らに付き添っていてくれた女性――リオーネがいなければ、シャインの頭は状況が呑み込めず、ますます混乱していただろう。
「気付いたのね、シャイン」
ふわりとした淡い白金の髪を揺らし、リオーネは新緑色の瞳をうるませて、小さな子供をあやすかのように何度もシャインの頭を撫でた。
無理もない。
リオーネは二十という若さで早世したシャインの母の妹で、赤子の頃から面倒をみてくれた「育ての母」だからだ。
彼女の話によると、シャインは一週間意識不明の状態が続いて、あと半日治療が遅れていたら命を落としていたかもしれないと告げられたそうだ。
リオーネの看護のおかげもあり、現在シャインは自分の足で療養院の中庭を散歩できる程まで回復した。
今日も体力をつけるためにシャインは中庭を歩いていた。
エルシーア国の南部にあたるアスラトル地方は晴天の日が多く、年中暖かくて過ごしやすい気候だ。ひとしきり歩いて休憩用の木の長椅子に腰を下ろすと、誰かがこちらへ歩いてくるのが見えた。
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