少女は街へ降り立って

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 たくさんの人が行き交う都会の薄灰の石畳の上を、少女がひとり歩いていました。長い髪に、スミレ色のワンピース。それからカラスみたいに真っ黒の大きな三角帽子が、春の夕べのさわやかな風にはたはたと揺れます。  つい今しがた列車を降りこの街にやってきたばかりの少女は、初めての街にも、見たこともないような大勢の人の波にもちっともひるむことなく、小さな古ぼけた旅行かばんを地面に引きずりながら、意気揚々と大通りを行くのでした。暮れかけの、うっとりするような薄紅色に染まった空が、少女をあたたかく見守っています。  この国――ダリア王国で一番大きな図書館と、街の中央に堂々と立っている魔法の研究施設に、立派な魔法学校。それらを抱えているこの街――魔法都市『月の街』は、少女が夢にまで見た、あこがれの場所でした。  少女の名前は、サラサ。行商の馬車に乗り合い、列車を何本も乗りついで。サラサはとても遠くの田舎の村から、この街へとやってきたのでした。幼い頃からの夢を、かなえるために。 (そう。この街でわたしは、おばあちゃまみたいな素敵な魔女になるんだ)  サラサは、胸にかたく誓っていました。
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