□ 「真夏の真昼の夢。」

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 姿見はリビングの隅にある。軽く目を通しておこう。……着の身着のまま寝てしまってたのね。ワンピースに皺はない。あったとしても目立たないでしょ。寝癖もないし。あー、髪結ったまま寝落ち。あるある。引きこもりなので日焼けとも無縁。……暗がりで見たって細部までは分かんないか。かと言って、誰に会うわけでもなしに。一応、女の子としての最低限の身嗜みってことで。飾りっけない地味なわたしでも、そのくらいは気にするの。ちょこっとね。  ハーフアップ揺らして、玄関へ。丁度、わたしの部屋から突き刺すように伸びた西陽が、一層眩しく、そして部屋に降りた帳の影を深く濃くしている。それがなんだか、ひどく虹彩に焼き付いた。一抹の感傷。  不意にどこからか、転がってきたのは風鈴の音色。  うちにそんな風流なものはない。知らない誰かのお家と我が家が、どうしてか繋がったような、そんな気がした。夏を告げる鈴の音に、ひぐらしの輪唱。いつになく夏休みっぽい情景だなーって、ほんの僅かな時間、聴き入る。それから、 「─────いってきます。」  誰になく言い残して、ドアを開けた。  
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