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「ううん、行けると思う。行きたい」
自分でも愕くくらい、積極的に返事をする。久坂は大きく笑った。
「よし、じゃあ、行こう」
きまりだな、と、手を差し出される。秋鹿がきょとんとすると、ほら、と、目顔で促される。叩けと云うのだ。秋鹿は不慣れな音をさせて、久坂の手を叩いた。
例のプリントの最後の問題は、思いがけず正解であった。昨夜、時間をかけて粘った甲斐があった。苦手な数学だけに、なおさら嬉しい。他の問題で間違えてしまったけれど、この問題が合っていただけで十分だった。
今日は日直の仕事や先生に頼まれた用事があったので、普段より帰りが遅くなってしまった。
「秋鹿、今日はあわてて帰らないんだな」
給食のパンの残りを啄ばみながら、銀河が云った。秋鹿の胸元に、パンの屑がぽろぽろと落ちる。秋鹿は銀河が食べやすいようにパンを持ちながら、笑った。
「僕、そんなにいつもあわてて帰ってた?」
「帰ってたさ。昨日も、一昨日も」
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