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話し合いを重ねて、秋の新作ケーキはハルの提案したスイートポテトのケーキに決まった。
「さっそく次の土曜日に、試作をしましょうか」
どんなケーキになるだろうと、秋鹿は想像しながら頷く。新しいケーキを作るのは、いつだって心が踊る。
「愉しみだな」
「そうね。せっかくだから、誰かに食べてもらいたいですね」
ハルの云う誰かとは、麗ら彦たちのことだろうか。だとしたら、秋鹿も同じ気持ちだった。
その翌日も、麗ら彦たちは店に来なかった。人間の客は来ても、麗ら彦たちのいない店内は酷く静かに感ぜられる。初老の女性が珈琲とケーキを食べて帰っていくと、ハルが云った。
「秋鹿、ちょっと留守番を頼んでも良いですか。明日の試作の為の材料を買ってきたいの」
午前中に行ってきたけれど、買い忘れたものがあって、と、苦笑いをする。
「こう云うところが、年なんでしょうねえ」
しかし見た目は二十代前半の若い女性なのだから、秋鹿にはおかしい。
「一人で大丈夫、」
もう後わずかで閉店だった。秋鹿は頷いた。
「うん、大丈夫。行ってらっしゃい」
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