4

6/12
606人が本棚に入れています
本棚に追加
/292ページ
 土曜日と云うこともあって、客の数は多く、店は少し忙しかった。秋鹿もハルも良く働いた。新作のスイートポテトのケーキは、特に女性客に大人気だった。どの人もとてもおいしそうに食べてくれた。ハルと秋鹿は大成功だと頷き合った。麗ら彦たちにも食べてもらいたかったが、彼らはやっては来なかった。  次の日、店を開けると、貉の籠枕がひとりでふらりと入ってきて、カウンターの端に坐ると、たちまち睡りはじめた。他には人間の客が来るばかりだった。人間の客ばかりだと、籠枕の存在はちょっぴり浮いたように見えなくもない。だが彼が静かに睡っている所為(せい)か、他の客たちはさして気にしていないようだった。 「籠枕さん、本当に良く寝てるね」  誰が店に入ってきても、どれだけ騒がしくなっても、籠枕が起きる気配はなかった。 「そうですね」  珈琲カップを拭きながら、ハルは笑った。  ドアベルが鳴る。新しいお客さんがやって来たと思ったら、久坂だった。
/292ページ

最初のコメントを投稿しよう!