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「母さんだ」  送り主の名前は、夏紀のものだった。先日の電話で、彼女が土産を買ってくると云っていたことを憶い出す。秋鹿はその場で箱を開けた。外国製のチョコレートとビスケット、そして革のペンケース……ペンケースには猫の図柄の焼印が入っていた。 「まあ、素敵ですね」  ハルが秋鹿の手元を覗き込む、秋鹿が猫を好きだと判っていて、夏紀は選んでくれたのだろう。 「お土産のお菓子、おばあちゃんと食べてねって」  添えられた手紙の文面を読むと、ハルは目を(ほそ)めた。「外国のチョコレートなんて、嬉しいわ。こっちのビスケットも」  チョコレートは宝石箱のような缶に、ひとつずつキャンディのように包まれて詰められていた。ビスケットにはクリームが挟んであるようだ。どちらもとてもおいしそうだった。 「このお菓子、キッチンに置いてもいい、」 「ええ。良いですよ」  みんなと一緒に食べたかった。いつでもすぐに取り出せるように、秋鹿はチョコレートとビスケットをキッチンの棚にしまった。それから鞄を置きに二階に行こうとして、籠枕が隅のテーブル席にいるのに気が附いた。いつものように物音ひとつ立てず睡っている所為(せい)か、全く気配を感じなかった。テーブルには、空の珈琲カップが置かれている。
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