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控え室に入ると、智典は壁際のベンチに力なく腰かけた。
背中を丸め、腿に肘を置いて脚の間に両手をだらりと垂らし、虚ろな目でボーッと床の一点を見つめている。
智典……。
掛ける言葉を探していると、かすれた声がした。
「……ごめんなさい」
「……何で、お前が謝るんだよ。謝るのは俺のほうだ。俺がセコンドとして未熟だから、適切な指示を出せなかったから、だから……」
智典が両手で顔を覆った。肩が小刻みに震えている。
「ごめんなさい……」
湿った声。
あまりにも弱々しいその響きに、続けようとした言葉を飲み込んだ。
俺のせいだ……そう言ったところで、こいつの傷は治らない。
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