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だけど、それならどうすればいい?
こんなに深く傷ついている選手を励ますには、どうしたらいい?
親父は俺が負けたとき、何も言わなかった。
それは下手な慰めより救いになった。
こういうとき、言葉は無力だ。
わかってる。
わかってるけど、黙ってはいられない。
励ましたい。
何か、何か言葉を……。
智典の隣に座り、震える肩にそっと手を置いた。
「……お前は、本当によく頑張ったよ。あの柳瀬を相手に7ラウンドまで戦ったんだ。十分凄い。胸を張って良いんだ」
智典は、やんわりと俺の手を払った。
「……すみません、少し、ひとりにしてください」
「智典……」
「あなたに、こんなカッコ悪い姿、見られたくない……」
うつむいて、すすり泣くように呻く。
ああ、そうか……。
これまで無敗だった智典。
だからこそ、初めての敗北は、その心をひどく打ちのめしたのだ。
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