141人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
いつかこうなることは、わかっていた。
ろくに経験もないまま格上とばかり戦って勝ち続けるなんて、普通に考えてありえない。
やがて訪れる敗北は、智典の心を壊してしまうだろうと予感していた。
そのとき自分はどのようにして彼を支えればいいか……考えなくてはならないと思いながら、考えることを拒否していた。
智典が負けることなんて、考えたくなかった。
避けていた状況に直面して、俺は、何もできない無力さを、それを招いた自分の弱さを、心底呪った。
智典……。
いつも笑顔で、自信満々だった。
試合前でも俺より落ち着いていて、強気な発言で俺の不安を払拭してくれた。
選手を支えなければならないのは俺なのに、俺はいつもお前に支えられていたんだ。
本当は、お前も不安だったろうに。
実際にリングに立つのはお前だ。
お前のほうが遥かに恐怖を感じていただろうに。
なのにお前は泣き言ひとつ漏らさず、二人分の不安を背負って、ひとりで戦っていた。
そして今も、ひとりで苦しんでいる。
たまらなくなってベンチから降りた。智典の前に膝を着いて、その顔を覗き込む。
「お前、カッコよかったよ……!」
最初のコメントを投稿しよう!