柳瀬戦

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いつかこうなることは、わかっていた。 ろくに経験もないまま格上とばかり戦って勝ち続けるなんて、普通に考えてありえない。 やがて訪れる敗北は、智典の心を壊してしまうだろうと予感していた。 そのとき自分はどのようにして彼を支えればいいか……考えなくてはならないと思いながら、考えることを拒否していた。 智典が負けることなんて、考えたくなかった。 避けていた状況に直面して、俺は、何もできない無力さを、それを招いた自分の弱さを、心底呪った。 智典……。 いつも笑顔で、自信満々だった。 試合前でも俺より落ち着いていて、強気な発言で俺の不安を払拭してくれた。 選手を支えなければならないのは俺なのに、俺はいつもお前に支えられていたんだ。 本当は、お前も不安だったろうに。 実際にリングに立つのはお前だ。 お前のほうが遥かに恐怖を感じていただろうに。 なのにお前は泣き言ひとつ漏らさず、二人分の不安を背負って、ひとりで戦っていた。 そして今も、ひとりで苦しんでいる。 たまらなくなってベンチから降りた。智典の前に膝を着いて、その顔を覗き込む。 「お前、カッコよかったよ……!」
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