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「本田刑事を撃ったな!」
「違う……だって、こいつが……」
引き金を引いてしまった犯人は、殺人の罪を犯した恐怖のあまり、拳銃を捨て去り叫び声を上げた。
「うおおおおおお!!!」
目を血走らせ、常識ではありえない行動に出る。
「くそおおおおお!!!」
窓ガラスを体当たりで破壊し、ガラスが刺さった血まみれの身体をものともせず、ベランダの手すりに足をかけた──自殺する気だ。
それを止めるべく、東は犯人の腰を掴んだ。しかし、既に身体半分落下していた犯人の重さに耐えきれず、踏ん張る力の甲斐ももなく東の身体もベランダの外へ──空中へ放り出された。
(やばいっ、落ちる!!)
はるか八階下のコンクリートに叩きつけられる自分の姿が目に浮かぶ。それでも犯人から手を離さない東の視界が真っ赤になる。
「東ああああ! 掴まれ!!」
上からの声援に東は目の前の赤に必死にしがみついた。
「おおおおお!!!」
──身体がブラブラと浮いている
「止まった……」
両肩の関節にとんでもない痛みと、赤い紐を掴んだ掌が摩擦による火傷で痛い。
だがその痛みは自身が生きている証拠。
ホッと一息つき、下を見ると腰を掴まれぶら下がる犯人、上を見ると赤い紐を掴む血管が浮き出た手と、紐を投げてくれた本田がいた。
本田はよくやったと微笑んでいた。その笑顔は撃たれた事を感じさせない。
何故なら、あれはダミーの拳銃だからだ。
本物は背中に隠してある。
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