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こんな時の為に腰につけているのは空気砲まがいのダミーの拳銃で、本田も東も常に携帯していた。ちなみにこの方法を教えてくれたのは本田で、もちろん先ほどの一連の流れは二人の演技であった。
ホッとしたのも束の間。ビリビリと嫌な音がする。
「破れるぞ!目の前のベランダに飛び移れ!」
「はい!!」
二人分の体重で裂け始めた赤い紐。一度大きく助走をつけ、東は犯人を抱えて目の前の六階のベランダに飛び移った。
一命を取りとめ放心状態の犯人に現実を突きつける。
「逮捕するっす!!」
かけられる手錠を他人事のように見つめる犯人の瞳は絶望ではなく、生の喜びに輝いていた。
だが、犯罪者も同じ人間だと感傷に浸る暇はない。決死の救出劇で張り裂けそうに高鳴る心臓をさらに押して、東は犯人を八階へ連行した。
「はあ、はあ。本田刑事! 逮捕したぐふっっ!!」
あの部屋に戻ると、応援の連絡をかけ終えた本田が、犯人を引き摺って疲弊した肩にパンチを食らわした。
「何ボケっとしてやがる!」
本田はダミーの拳銃の一連の行動は演技だったが、人質に取られたことに関しては演技でもなく東の不注意だと分かっていた。
「犯罪者だろうと危険な目にあわせちゃいけねえ! 何べんも言ってんだろ! それに仕事中に気を抜くやつがあるか!!」
全てを見透かされ落ち込むところだが、あんな事があった後のせいで東は興奮が冷めていなかった。
「すみません。」
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