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反省はしているが、肩で息をし、アドレナリン全開の身体は激しく高揚している。
顔を真っ赤にしている東に本田の叱責は止まらない。
「これがなかったらどうしてたんだ!」
東のポケットに雑に詰め込まれてはみ出している赤い紐にゴツゴツした人差し指が向けられる。
「破れたんで、縫ってから返します」
「それは俺の私物だからいい! そんな事より、何考えていやがった! あれか?さっきの……」
流石にここで刑事の悩みをぶちまけてはいけないと本田が最後失速した。
しかし、本田の言いたいことが東には分かっている。そして図星だった。
そのせいか、興奮していたこともあり、初めて本田に声を荒げてしまった。
「俺だって悩んでいるんすよ!!」
「だからって仕事中に考える事じゃねえだろ!」
「仕事中だからこそ駄目なんすッ!!」
だって、目の前に婚約者の父親がいるのだから。
「仕事なめてんのか! 命かけろつってんだろお!」
威勢を取り戻した本田が巻き舌になる。
「俺はな、命かけてんだよ! お前がピンチならお前にだってこの命くれてやる!」
仕事への熱の入って無さを東に説教する本田の刑事魂に、興奮で混乱しきった口がとんでもない事を吐き出した。
「そんなものいりません! それをくれるなら……!!」
唾をまき散らしながら叫ぶ東はもう止まらない。
「娘さんを俺に下さい!!!」
東の一世一代の結婚報告は犯人という見物客を唖然とさせ、応援に駆け付けたパトカーのサイレンをBGMにして、本田の心を紙吹雪の様に散らした。
駆け付けた仲間たちがその後見た光景は、息の上がった東と床で項垂れる犯人たちとベテラン刑事本田の姿だった。
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