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あの衝撃的な結婚報……犯人の逮捕劇から数日後、正式に東は本田の家に挨拶へと向かった。
だが、本田はわざと留守にし、挨拶は叶わなかった。
しかし、職場で避ける事は出来ない。
「おはようございます」
「おう」
「本田刑事、これ……」
「おう」
「布、一応縫ったんすけど……俺、裁縫苦手で」
「おう」
あの赤い布は裂傷部分が酷く、赤に近い臙脂色の布を当てて縫い直したのだ。不格好な縫い方にも関わらず、二つ返事で受け取った本田。
「今日の張り込み、何時に行くっすか?」
「おう」
「……」
だが、最後の噛みあわぬ返事でそもそも彼の心はここにあらずだと悟った。
かれこれこんな日々が数日続いている。
同僚達は何事かと噂したが、式への参列の案内が届くとなるほどと理解した。
それ以来誰も触れてこない。
「捜査一課始まって以来の阿吽の呼吸バディがいよいよ解散か?」と言う者もいたが、悲しい事に阿吽の呼吸だけは健在だった。
サッと何も言わずに本田が報告書を差し出せば、それが何か言われなくても常に本田の行動を視界の隅に入れる東は、印鑑を取り出し判子を押す。
東が引き出しの舌で溶ける真っ黒なシート式の眠気覚ましを出せば、本田は足元のゴミ箱を東に寄せる。
本田がクロワッサンを食べ始めれば、東が二段目の引き出しをあければ、ペンを回し始めれば……
何をしても次の行動が読めて、それにそった行動をしてしまう二人。
「……」
「……」
思わぬところで、息のピッタリさ加減を再確認してしまった。
だが挨拶の日取りだけは合わず、結婚式の日が刻一刻と迫ってくる。タイミングを見計らって口を開けば、そこもお見通しなのか本田は席を立つ。
「はあ」
本田に聞こえないようにため息をつく東。
東自身も、奈々の父親が本田だと知ったのは結婚報告をしたあの事件の前の日だった。
開いた口は塞がらず、全てが崩れ落ちる音を聞いた気がした。
しかし奈々と結婚したい気持ちは変わらず、覚悟を決めた。その筈なのに仕事中でも調子は狂い、空回りした結果最悪のタイミングで結婚報告をしてしまった。
あの日は酒をかなり煽ってしまった。
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