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奈々によると、本田は家では結婚に関して何も言っていないらしい。だが、落ち込みは激しく、あの定年間際の身体はもう三回ほど階段を転がり落ちたそうだ。
もう一度ため息を吐きかけた時、頬に青あざを作っている本田が戻ってきて東に書類を差し出した。
「ありがとうございます」
何か言いたそうに口を開いた本田の前に東が更に言葉を繋げる。
「あとは鑑識に再確認して、ホシの身辺調査もしとくっす。あと、今日印鑑持って部長の所行かないといけないんじゃないっすか?」
本田が印鑑を入れている引き出しをコツコツと叩く東。
こうもしてほしい事と、彼のやらねばならぬ事、物の位置まで把握している自分に嫌気がさす。これを普段から無意識でしていたとなると、確かに周りから「阿吽の呼吸バディ」と言われるのも頷けた。
しかしそれを再認識できただけで、肝心なあの件だけは一向に解決しない。
家に行ってもダメ、職場でもダメ、東の行動も読まれているのだから当然だ。
東は椅子に項垂れる。
「はぁぁ、明日はいよいよ……」
──結婚式だ。何も言えないまま迎えてしまった。
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