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秋晴れの結婚式当日。親族一同の表情と心は曇りきっていた。
「お父さん」
純白のウエディングドレスに身を包んだ奈々が悲し気な声を出した。
幸せな花嫁にあるまじき表情に、東は何と声をかけていいか分からない。
控室に入ってきた奈々の母、つまり本田の妻・知美が首を横に振る。
「連絡も取れないわ」
結婚式当日を迎えた今日、非常事態が発生した
──父の本田和彦が現れないのだ。
「一緒に家を出るべきだったわ」
ごめんなさいねと謝る留袖姿の知美は、着付けの為早くから来ていた。モーニングを着る本田は親族の顔合わせに間にあえば問題なかった。
だが、本田はそれにすら現れなかった。
「つかささん。あの人、職場で何か言っていたかしら?」
知美の言葉から、本田は家族にすら今回の結婚に賛成か反対か伝えていないのが分かる。
だが、それは東も同じだ。何も聞いていない。そして今日の行動で、本田の意志ははっきりした──反対しているのだ。
逆に罵声を浴びせられる方が気持ちは楽だ。しかし、あの熱血刑事は何も言わず、完璧に東と家族の調子を狂わせてきた。
「それほど、ショックだったのね、あの人ったら」
首を横に振り、呆れと諦めの声を出す知美。
「お父さんの馬鹿」
怒りの色が灯る奈々の瞳。
二人の女性が本田に対して不満を漏らす。
だが、二人が不満を漏らすたびに東は「本田刑事はそんな男ではない」という気持ちが沸々と芽生え始めていた。
「きっと来るよ」
根拠のない励ましだと捉えた奈々が東を睨む。
「本田刑事は、娘の結婚式には必ず出ると俺に言ったっす」
あの時はまだ東と奈々の結婚は秘密にしていた。
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