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しかし彼はその後、こうも言った──俺は約束は必ず守る男だ、と。
東はそれを信じていた。そしてそれは必ず守られると確信していた。
「阿吽の呼吸バディ」だからこそ分かるのだ。
「本田刑事は必ず来るっす!」
そう強く二人に言い聞かせ、控室を出た東。
扉の前で深呼吸をして、タキシードのズボンのポケットに触れる。片方はいつも持ち歩いているお守り。
もう片方は……
「……」
取り出した携帯電話を耳に当てるが、一向に受話器の上がる音はしない。
20コール目にして、先ほどからやけに目の前を慌ただしくスタッフが行きかうのが見えた。耳に携帯電話を当てたまま、スタッフの声を小耳にはさむ。
「おい、いつ動くんだ」「こんな時に限って」
何か緊急事態が発生したようだ。そして東は21コール目に入った。
その時……
「何でこんな時にエレベーターが故障するんだ!」
21コール目もつながらなかった。
いや、東から切ったのだ。
「それどういう事っすか!」
「新郎様!! 落ち着いてください!!」
「落ち着いていられるわけがない! 新婦の父親がまだ来ていないのに!」
その言葉にスタッフの顔が青ざめる。
「もしや下で立ち往生を」
控室は10階。もしかしたら……。
「非常階段できているのかもしれません。」
とスタッフの一人が言った。だが、その横のスタッフがわき腹を小突く。
「非常階段は今、2階の調理場からウエディングケーキを運んでいる。あの大きさじゃ階段を塞いでいる。」
東たちの特注のウエディングケーキが、壊れたエレベーターのせいで、非常階段を利用してこちらに向かっていた。
繊細な物の為細心の注意を払って亀より遅いスピードで登ってきているに違いない。
絶対に本田は来る。まだそう信じて諦めない東は必死に考えた。
「くそっ!」
(こんな時、本田刑事ならどうする)
入り口も階段も使えない。登ってくる手段がない。八方塞がりな状況……本田刑事なら……
「これしかない!」
一つの答えに辿り着いた東は、スタッフに
「ロープを貸して欲しいっす!」
と告げた。顔を見合わせるスタッフに「早く!」と催促をする。
急きょ用意された緊急時用の頑丈なロープを持って、窓を片っ端から回り見下ろした。
(いない、いない……。ここにもいない……)
最後の列の窓に祈りながら近寄る。
そして……
「本田刑事!」
はるか10階も下から上を見上げるモーニング姿の本田がいた。
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