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父親だけではなく新郎までいなくなり、チャペルの前であたふたしている奈々の前に汗だくの父親と夫は現れた。
「お父さん!」
「すまなかった奈々」
嫁に行く娘を抱きしめる父。
それを見届けて、先にチャペルに入り壇上へ上がる東。職場の仲間、友人、親族がみな東を笑顔で見つめている。
一連の儀式をおえ、人々の視線は閉ざされたチャペルの扉に向けられる。
「シンプ、ニュウジョウ」
と神父の片言の言葉の後にパイプオルガンと聖歌隊の美声が響き渡り、重い扉が開く。
皆が息を呑むその先には純白の花嫁と、娘の結婚式で大粒の雫を零す父の姿だった。
その光る雫は涙腺を緩ませ、参列者の感動をよぶ。
しかし東は知っている。
あの雫は、みなが思っているよりもはるかに重いと。ようやくこの結婚と向き合う決心をした父が決死の覚悟で流した臭いたつしょっぱい雫なのだと。
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