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まだ祝福の鐘が鳴るより数ヶ月も前……
「東、ほらよ」
運転席からマンションを血眼で監視していた東つかさに、先輩刑事の本田和彦がコンビニの袋を投げてよこした。
「交代だ。しっかり食え」
既にコンビニの帰りしなに食事を済ませたであろう本田からは甘い香りがする。
「刑事はまたクロワッサンすか」
刑事の張り込みといえば「あんパンに牛乳」ではなく、クロワッサンを張り込みのお供にしている本田は55歳。甘党らしく、クロワッサンだけではなくジャケットからはコーヒー牛乳のパックが覗いていた。
「これがねえとな。娘の手作りだ」
母親から娘に受け継がれた手作りクロワッサンは本田の元気の源だ。
口元についたパイ生地をピッと親指ではじく本田を、悲しそうな瞳で見つめる東は思わずため息が零れそうになる口を閉じた。
「おい」
「はい!」
「何隠してんだ?」
「別に、何も……」
「馬鹿野郎。お前の嘘は直ぐにバレる。何年バディ組んでると思ってんだ」
東が刑事になって最初の指導係がベテランの本田だった。
熱血刑事で現場至上主義の本田に食いついてきたのも東が初めてで、それ以来今まで二人がバディを解散させたことはない。
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