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急に東の息子の色のビフォーアフターが始まり、本田は必死に話を逸らそうとした。
「気にすんな。そ、その、大したこともなかったからいいじゃねえか! 命があるだけましだ!」
あの痛みがとんでもない事は同じ男の本田にも分かる。立ち上がれなくなるような激痛で、よく東は立っていられたと感心していた。
(これなら娘を預けられるかもしれない)
とまで、思ってしまうほどの武勇だ。
しかしまだ悲しそうな表情をする東に本田は謝った。
「俺の方こそ悪かったな」
「え?」
「身体、大丈夫か?」
痛みが消えたか確認するも、黙り込む東。
「……」
本田は最悪の状況を想像し、未来ある東の息子に土下座したくなる。
「俺はもう使わねえが、お前は使うだろ?」
今から現役の若者のそれと自身の枯れたそれを比べてしまう。
「使わないっすよ。結婚式終わったら病院に行きます」
そこまでなのかと顔を覆いたくなった。
だが、そこで本田の中に一つの疑問が生まれる。
「使わない」「病院」という単語に、何かが引っかかる。
そして必死に頭を回転させた結果──「もう使わないっすよ。何故ならもう奈々は妊娠しているから、結婚式終わったら産婦人科に行く」と変換した。本田の孫に対する夢はまだ終わっていなかった。
まさか娘の身体に新しい命が宿っているとは思わなかった本田は叫びそうになる。
しかしそれを堪える。
「お前まさか……」
堪えても声が低くなることは止められなかった。
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