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それに焦りだす東。
「いや、まだっすよ!とりあえず検査をするっす」
奈々に妊娠の兆候があるという事か。
できちゃった婚にステレオタイプの男として怒りは沸くが何にしてもめでたい事だと本田が思ってしまうのは、謀らずしもチャペルで孫を想像してしまったからだろう。
「俺が良いところ紹介してやる。そこにしろ」
大切な孫と娘だ。本田には特に産婦人科として信頼を置いているクリニックがあった。
家から近いクリニックは評判の良い先生がいて、奈々もそこで誕生した。
だが奈々はなかなか産まれてこず、緊急の帝王切開になった。
結婚式だからこそ、あの日の一人娘の誕生も人一倍感動の瞬間として蘇る。
必死に生きようとする産声、幸せの瞬間、最後だけ手術室に入り、臍の緒を切ったのは……
「本田刑……いえ、お義父さんもそこで?」
「ああ。手術だったがな。」
「手術したんすか?」
「ああ。あの日の事は忘れねえ……俺が切ったんだ」
臍の緒を切ったのは本田だった。
その感動ストーリーを聞いていた東の顔がどんどん青ざめて行く。
「ちょ……えっ……」
あの現場は、刑事としてくぐってきたどんな現場よりも悲惨だった。感動を得るまでのそれは壮絶だ。それは大人の男を気絶させるほどという。
それをもう想像しているのか東は蒼白になるだけでなく、モジモジし始めた。
「馬鹿野郎。男ならシャキッとしろ。血の一滴や二敵でビビんじゃねえぞ」
「……」
「本当につらいのは奈々なんだ。」
今度は奈々が子どもを産む。
あの日と重ね合わせ天を仰ぐ本田の横で震える東は実は別の事を考えていた。
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