29人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
披露宴が始まってしばらくすると、新郎新婦の元へ参列者が集まりだした。お酌をしてもらったり、奈々の花嫁姿を見て涙を流すもの、東に家族とは何か語るもの様々だ。
「奈々、写真撮ろう!」
奈々の友人がカメラを向けてくる。
「僕も!」
と奈々の友人の息子が声を上げておねだりをする。
「あいだにどうぞ」
と、東と奈々の間を奈々が勧め、その子は二人の間に納まった。何回かシャッターが下りた後、東の腰丈くらいの少年はテーブルの生花をいじったりとはしゃぎ、それを微笑みながら眺めていたのだが……
「そういえば、奈々仕事はどうするの?」
友人が奈々の今後の事を聞き始め、奈々が答えていく。
東もそれを眺めていた。そしてその一瞬の隙をついて小さな窃盗事件が発生したのが。
「ん?」
腰のあたりがむず痒い。見下ろすとあの少年がいた。
「?!」
その手には拳銃が握られていた。
それは東がお守りとしてポケットに忍ばせていた空気砲の拳銃で、今回の結婚式後半の重要なアイテムだ。
それを一瞬の隙を突かれ少年に奪われてしまった。
あの拳銃は本物ではないにしろ、この結婚式には欠かせない物。東は取り上げようとしたが、少年はすばしっこく逃げて行った。
追いかけるために席を離れようと動けば
「そろそろキャンドルサービスの準備を」
とスタッフに強制退場を食らってしまう。
──ここまで話、東は本田の鉄槌を覚悟した。
「オモチャだよな?」
東は顔を上げない。
「本物っす」
あれは偽物だ。だがそういえば、本田は奪還作戦に協力してくれないだろうと思って嘘をついた。何に使うのか言えないのも理由の一つだ。
顔を見られれば嘘だとバレる。だから頭を下げ続けた。
「この青二才ッ、 始末書もんだぞッ」
怒気を含め、場には留意して静かに叱りつける本田。
「次はキャンドルサービスです」
東の「キャンドルサービス」という言葉にみなまで言わずとも本田は理解した。
「くっそ。連帯責任だ。何とか騒ぎを起こさずに暗闇の中で回収してやる!」
「ありがとうございます!!」
「どのガキだ」
「赤い蝶ネクタイをつけています。子どもは一人しかいないのですぐにわかるっす!」
「分かった。お前はなるべくキャンドルサービスで時間を稼げ」
「了解っす!」
敬礼をし、再び「義理の父と息子」の作戦が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!