29人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「ただいまよりキャンドルサービスを行います!」
披露宴会場に進行スタッフの声がマイクを通して拡声され、場内の照明が全て落ちる。
少しだけざわついた声が一気に歓声となる。それと共に巻き起こった拍手の中、スティックを持った新郎新婦が入場した。
親族席へキャンドルサービスをしに行くと、そこに本田の姿はない。
「母ちゃんに捕まったら敵わねえ」と言い、本田は後から会場に入るつもりでいた。
新郎新婦両家のキャンドルサービスが終わった後、東は背後の扉が開く気配を感じた。
視線だけ向ければ低姿勢の黒い塊がぼんやりと見える──本田だ。
作戦開始だ。
会場の外で一旦座席表を確認した。
座席表をまるで地図でも見るかのように見渡し、対象者の居場所を確認する。
新婦側の真ん中の座席、そこに件の相手はいた。
一人だけ「くん」と表記され、見つけるにはたやすい。だが、それはこの紙面上だけ。
会場では縦横無尽に動き回る逃走者になっている。
母親が彼を捕まえてくれていることを信じ、新郎新婦が消えて行った扉からこっそりと会場へ戻った。
現場の明かりは真っ暗。だが一点だけ暖かなオレンジが揺らめいていて、ヘマをした相棒の居場所を知らせてくれる。そこに背を向け、本田は耳を澄ませた。「綺麗」「この蝋燭よね」「写真撮れるかしら」という声が所々から聞こえる。その中から必死に容疑者を特定できそうな物を捉えようと神経を研ぎすませながら、望み薄で少年の席へ辿りついた。
目も少し慣れ、性別くらいなら認識できるようになった。そして案の定その席はもぬけの殻。隣の席では首を忙しなく動かす花飾りのついた頭が左右に動いている。
(ここにはいないようだな)
低空飛行する鷹の様に鋭い眼光を暗闇の中へ向ける。
低い位置でぼんやりと浮かび上がる赤い何かが目の前を掠めた。
(いたぞ。あのガキか)
本田は徐々に点火していくキャンドルから逃げるように駆けていく小さな窃盗犯を追いかけた。
少しずつ距離を縮める。感覚に敏感な犯人は本田に気が付いたのか突如姿を隠した。
テーブルクロスの向こう側に。
最初のコメントを投稿しよう!