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(あの拳銃がもし発砲されれば結婚式どころか、東、つまり奈々の旦那は職を失う。どう転がっても娘に危害が及ぶ。何としても取り返さねえと)
隣の素足と投げ出された靴下を睨み付ける。
(病院行け。臭いの化学兵器め!)
心の中で悪態をつき、モーニングの袖で鼻を塞ぐ。そしてスマートフォンでもう一つの目的を探すと、別の刑事の足元で拳銃をもて遊んでいた。
「おいガキ、それを渡せ」
「誰だよオッサン」
正装に似合わぬ反抗的な発言に本田のこめかみに青筋が浮かぶ。
「生意気なガキめ、いいからそれを寄こせ」
赤い蝶ネクタイの上で血行のよさそうな舌が人を小馬鹿にする。
「このやろ!」
捕まえようと狭いテーブルの下で突進したが、小さい身体は意図も簡単にすり抜け、2人の位置が入れ替わっただけだった。
「ばーか!」
犯人を見失わないようライトを当てるとこれまた人を小馬鹿にした顔で本田を煽る。
「何だこれ?」
「あっ、それは!」
子どもが化学兵器に気が付いた。それと拳銃を装備されれば本田がいくら防御しようと勝ち目はない。
化学兵器(山下の靴下)を拾い上げた子どもはまずそれを自身の鼻先に近づける。
「ガキ、死に急ぐな!」
意識を失うか、それとも発狂するか……どちらにしても拳銃を奪うチャンスが到来した。
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