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だが、子どもは本田の予想を覆し、恍惚とした表情を浮かべている。
(麻薬取り締まりの時に見た気がするぞ)
などと失礼な事を思い出し、本田は身震いしてしまった。
「う~ん、なかなか」
あの強烈な臭いを嗅ぎながら微笑みを浮かべる窃盗犯は、とうとう武器を手中に収めた。
そしてその瞳が怪しく光る。
小さな窃盗犯がマッドサイエンティストよろしく「くらえ!」と化学兵器を放った。
「くそッ!」
狭いテーブルの下で筋が痛むほど身体を逸らす。間一髪避け、「もう一度だ」と手を伸ばした子どもより先に化学兵器を素手で掴む。少し鳥肌がたった。
「ちっ」
と舌打ちをしてクロスを捲り、子どもは再び闘争を謀る。
本田もその後を追う。
テーブルの下から出る際、強めにクロスを握り少しだけ匂いを擦りつけ、気持ち洗浄した気分で飛び出した会場は幻想的な景色になっていた。
本田が激臭……激闘を繰り広げている間にほとんどのテーブルでキャンドルサービスが終了し、蝋燭には火が灯っていた。激闘を応援するような、祝福のその光景に感動しながら、なおも逃げた子どもを探す。視界に揺らめく影。
(見つけた)
今度は逃がさないと、狭い場所で腰を痛めた身体を伸ばしあとを追った。
「わああ、綺麗!」
「ヒュー、ヒュー!」
「本当におめでとう!」
テーブルを縫う間に、全てのキャンドルに火が灯り拍手に包まれる会場。それに後押しされるように本田は犯人の背中に手を伸ばす。
(あとちょっとだ!)
その時だった……
「うわっ!」
何かに躓き子どもが前のめりになる。
そしてその手を離れて宙を舞う拳銃。
落下の衝撃で破裂するかもしれない、そんな考えが脳裏に過った本田。
「おおお!」
拍手が起こる中、それに混ざり本田の雄叫びが轟く。そして……
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