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子どもの足元をすり抜けた赤い褌は、見事拳銃を掠め取った。褌のもう端を握る手をクイッと勢いよく引き、放たれた方を自分の元へと手繰り寄せる。
見事に獲物を確保した。
「あれれ?」
突如、赤い敵に獲物を奪われた窃盗犯は立ち尽くしていた、何が起こったか分からず辺りをキョロキョロしている。
そこへ甲高い声が降ってくる。
「こら! 何しているの!」
「げッ、母ちゃん」
無事に保護者が子どもを確保し、本田の拳銃窃盗事件は円満に解決した。
しかし、刑事はこれでは終われない。きちんと後処理、報告までが義務だ。
(さあ、これをどうやって東に渡そうか)
拍手は鳴りやみ、新郎新婦は上座の方にいた。まだ蝋燭の明かりだけの今ならこれに乗じて渡せるかもしれないと、今いる場所を離れようとする。
しかし、無残にも会場の電気が全灯し、シャンデリアが光り輝いている。
「やべえ」
思わずそう漏らしてしまった。
何故なら本田は結婚式会場で二番目に目立つ位置に立っていた。
新郎新婦の上座、参列客のテーブルを挟んだその前──ステージの上にいたのだ。子どもが躓いたのはステージの段差のせいだった。
「何かしらあれ?」
「ケーキ?」
しかも横には何の飾りっ気もない真っ白なウエディングケーキ。ゆうに四段はあるケーキは、今日エレベーターが止まった時に一生懸命階段で運ばれた特注品。
その豪華なケーキの横に立つ、新婦の父など悪目立ちにもほどがある。
「お父様、何しているのかしら?」
ざわつく会場。親族席では本田の妻が項垂れていた。しかしその姿は本田の目には映らない。
──何故なら本田はまだ仕事の最中だからだ。仕事と家庭を分けるのが本田の流儀。
だからこそ、こんな状況下でも本田はなりふりかまっていられなかった。赤い褌に拳銃を巻き、それを高々と上げる。
(何かのパフォーマンスに見せかけておきゃいいだろ。受け取れ東!)
腕を振った瞬間、一歩踏み出した東が腕を広げる。見事キャッチし、拳銃は持ち主の元へ帰った。
「よしっ!」と拳を握る本田。ガッツポーズまでしたくなったが、目の前の光景に目を見開いた。
「何してんだ、東……」
なんと、東が拳銃を本田に向けたのだ。
直線状に立つ二人はさながら追い詰められた犯人と刑事、もしくは娘の結婚に反対した父親を撃とうとしている義理の息子のようだ。
そして意図も簡単に東はその引き金を引いた。
──パンッ
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