File4 父と娘、ときどき相棒

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軽やかながらも本物と変わりないと発砲音に会場からは悲鳴が上がる。反射的に席を立つ刑事もいた。 そして撃った本人は口角を上げ、撃たれた本田は横を掠めた空気の弾に「そっちか」と安堵した。  だが、安堵したのも束の間、何故東が発砲したのか疑問が渦巻く脳内に観客の拍手が響き渡る。 「何が起こった……」 先程まで悲鳴を上げていた者、東を取り押さえようと席を立った刑事まで本田に向けて拍手している。 そんな大層な事をした覚えがない本田は、もう一つの可能性がある、自分の横の白い巨塔に目をやる。 「こ、これは」 さっきまで飾り気のなかったウエディングケーキの一段目には穴が開き、そこからチョコレートが流れ出て、白いケーキをデコレーションしていく。 チョコレートフォンデュに見えるその光景は、本田には急に振り出した夕立に濡れる道端の濃く染まる石ころに見えた。  何故なら…… (濡れ鼠みたいな気分だぜ)  本田を惨めな気分にさせるものがケーキの頂上に現れたからだ。 「こちらは……」 司会の男がこの誰も見た事がない様な不可思議なウエディングケーキの説明を始める。 「科学捜査研究所の山下様が今日の日の為にご厚意で作ってくれた特注のケーキでございます。新郎が空気砲で穴を開け、そこからチョコレートが飛び出る甘い仕掛け。しかもその反動でケーキの上に現れたのはこれまたあま~い表情を娘さんに向けるお父様の表情です」 なんと、その写真には寝ている奈々の横で抱きしめるポーズをする本田の姿が載っていた。  本田に切望の目を向ける参列者たちはこれが「娘大好きな父親」にしか見えていない。 しかしここにいる数人だけはこれの意味を知っている。 (どうせ俺は寝顔しか見る事のできねえ父親だよ)
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