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奈々と居られなかった時間の多さ。父親らしい事は何一つできなかった。だから奈々は自分を恨んでいる。今回の結婚も反対すれば尚更だ。
なのに、どうしてここに来てこの写真が出てきたのか分からない。
(何で今さら……当てつけか?)
空気砲を利用した事で東もこの件に関してはグルだ。拳銃を奪われたのは東の責任だが、この時の為に自分が必死になっていたと思うととてつもなく情けなくなる。
司会者が続ける。
「新婦奈々様のお父様は刑事でいらっしゃいます。昼も夜もない激務の中、深夜のこの娘さんの寝顔を見るのが唯一の楽しみだったそうです」
本田はこれについて奈々に話したことはなかった。話した事があるとすれば……
「嫁か……」
知美を睨み付ければ、フイッと顔を逸らした。
「ほんとっ、女にゃ敵わねえな」
と頭を掻いた。
そして写真の安らかな少女は大人になり、今日父の元を離れようとしている。真っ直ぐに見つめると、奈々は東の横にいた。
そして何やら紙を広げ、東は拳銃を仕舞い、その手にマイクを持っている。
そしてそのマイクが綺麗な紅が差されている唇の前に持っていかれる。
「お父さんへ……」
震える奈々の声。緊張で次の言葉に詰まっている。それを応援するように東が「一緒に頑張ろう」という声をマイクが拾う。
そして会場が奈々の持つ紙の正体が手紙である事に気が付き静まり返った。
本田も無意識に背筋を伸ばす。
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