File4 父と娘、ときどき相棒

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「ぐええ。おえっ、おえっ」 口から化学兵器を抜く。目を瞑り、ヒリヒリする舌を出し、歯を立てる。薄目を開けて視線を下ろすと、そこには派手なガラをした靴下。 「これって山下の?」 「わりい。ちょっと色々あってよ。とんでもないサプライズのお礼だ。受け取っとけ」 背を向け目を合わせない本田に一抹の不安を覚える。 いつも追いかけてきた背中と同じはずなのに、小さい。 「嫌でした?」 「何が?」 あのサプライズ、本田のプライドを傷つけるものになってしまったかと顔を覗き込む。 「見んじゃねえよ」 シッシッと追いやる本田の頬は染まり、目元も赤くなっていた。そして受け取った花束を不器用に撫でる。今日、何かと活躍する赤い褌も戦友の様に見つめる。 「ふん……まっ、ありがとよ」 シュルリと褌だけ外し、器用にズボンを下ろさず巻いている。長年履き続けているだけあって、股間も晒さずに履くとは流石だ。 「俺もそうやって履ける時がくるっすかね?」 「あん?」 「俺も履きますよ、褌。あと、クロワッサンも作ってもらうっす!」 「認めてもらう為のご機嫌取りか?」 「まさか。だってもう認めてくれていますよね?」 「……」 「何年一緒にいると思ってるんすか」 頑固な所も、娘想いな所も、そして熱血刑事な所も…… 「全部お見通しっす」 東は「お義父さんと呼べ」と言われた時に気付いていた。しかし、本人がそれでもこの結婚を認めたがらないのは、自身の今までの家族との向き合い方に負い目を感じていたから。 「奈々さんの為に頑張る姿、とても感動したっす。紛れもない父親でしたよ」 本田が背を向ける。 東の夫として適性を確認しながら、本田自身も父親としての自覚を試されていたのだ。そしてまた、結婚式成功のための役を与えられていたのだ。 「格好良かったですよ」 表情は見えないが鼻をすする音だけが聞こえる。 「馬鹿野郎」 そしてもう一度大きく啜った後 「新しくできた息子の為でもあるんだよ」 と言いながら親指で鼻を弾いている姿まで想像できた。 向き合う二人。決意で結ばれた口と、同じタイミングであがる腕。握られる拳。そして…… ──コツンッ 「行くか」 「はい!」 今日はどちらかが前を行くでもなく、後ろを行くでもなく。  会場へは二人肩を並べて入場した。  その後、結婚式は滞りなく進み、誰も刑事二人の奮闘に気づかぬまま幸せのお披露目は幕を閉じた。
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