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折角コンビニで、本田がおにぎりを東に買ってきたのに、まだ具さえ確認していなかった。
「食欲無いっす」
東が食欲がないのは当然の事だった。
何を隠そう東が結婚する相手こそが、今となりで娘の恋人を殴ろうとしている熱血刑事本田の娘・奈々なのだ。
本田が東を心配して無理矢理退勤させたあの日こそ、東の運命の日だった。
たまたま行ったバーで出会い、即交際がスタートした。
謀らずしもこの熱血刑事は最愛の娘と頼れる可愛い相方のちょっとしたキューピッドになっていたのだ。
その熱血キューピッドは真実を知ることなく、殴りたい相手ナンバーワンの男の身体を心配する。
「食っとかねえともたねえぞ!」
「はい」
顔面蒼白の東に本田は何かを悟った。
「あれか。向こうの親父にキレられたのか?娘と結婚させねえって」
きっと今からその言葉を言われると覚悟している東が生唾を飲む。
「気にすんな。何だかんだ親父ってのは最後は娘の相手を許しちまうもんさ!」
他人事だと思って言っているのが丸分かりの発言に、ますます真実を知った時の急降下が恐ろしい。
「ほ、本当っすね! 本田刑事も最終的には許すんですね?!」
覆面パトカー内にいまだに陽気な笑い声が響き渡る。
「許すに決まってんだろ!娘が連れてきた相手なんだ。俺は信じるし、勿論結婚式にだって行ってやらあ。それは奈々にも言ってる。だから、きちんと紹介しろってな。俺は約束はきちんと守る男だ。ま、一発殴ってからだけどな!」
奈々が既に予防線を張っている事は、東も知っている。
だが、衝撃的な一発……は、まだ先に食らうとして、衝撃的な一言を聞いてしまい身を硬くしてしまった。
その横で更に本田は身を硬くした。
「おい、東。」
本田の声色が変わる。
鋭い視線のその先、二人同時に双眼鏡を覗く。
「動いたな。」
監視していたホシに動きがあった。
静かに車を降り、スーツのジャケットを整える本田の背中を追いかける東。
先輩であり相棒である男は、あと少しで義理の父になるのだ。
バディを組んで最も本田に恐れをなしているかもしれない。
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