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「本田刑事、これは……」
今まで野放しだったマンションの入り口は暗証番号制の扉になっていた。
「勘付かれたか?」
最近の張り込みがバレ、此処の住人に先手を打たれたかと落ち込む本田。
一見普通のマンションの持ち主はある犯罪組織のトップ。
そして住人はおらず、ただ組の悪だくみにある一室を利用しているのみだった。
今回はそこへ立ち入る為に来たのだが、堂々と入り口から入れば犯人たちにバレてしまう可能性がある。
「どうするっすか?」
「ここで署に戻って作戦会議したって逃げられちまう」
覆面パトカーから確認した時点で、もし犯人が逃走の準備をしているところだったら……今までの努力が全て水の泡だ。
「ここは経験値頼みだな」
長年の経験値から対処法を探し出す本田。
前からの突撃が無理な時、本田がいつも出す決断が一つなのを東は知っている。
「ちょっくら待ってろ」
覆面パトカー内に戻っていく本田。
戻ってきた時には手に縄を持っている事は容易に想像が出来た。
「やっぱりそれっすね!」
案の定そこには長い物が握られていたが、今日はいつもと違う。
荒縄ではなく、赤く長い布だった。
「いつもと違う覆面パトカーだったからな。これしかなかった。でも……」
左右に引っ張り丈夫さを確かめる。
「一人ずつなら問題ねえだろ」
それに鉤をかけ二階の通路に投げる。
一階は、侵入者防止の為に通路側にもベランダ側にも鉄格子が設置されている。
その一階を超えて二階の手すりに見事鉤が引っかかった。満足そうな笑みを一瞬浮かべた本田が気合を入れ直す。
「よしっ! 行くぞ!」
「はい!」
拳をコツンとぶつけ合う。
二人にとって何度目かの紐を伝っての侵入劇が始まった。
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